uneyama記録

はてなダイアリー過去ログ(更新予定無し)

第2回「栄養成分表示検討会」

消費者庁のサイトに資料がアップされています。
http://www.caa.go.jp/foods/index9.html
主な議題は
畝山の栄養成分表示検討のための背景
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/110131_1.pdf

佐々木先生の各栄養成分と健康影響に関する考え方
http://www.caa.go.jp/foods/pdf/110131_2.pdf


持ち時間15分だったので十分説明できたかどうかはわからないのですが、基本は次回プレゼン内容で書いたようなことです。
1枚目の

●我々の目的は人々の健康と福祉の向上
企業・研究者・消費者・行政などの立場に関わらず、目的は共通
●全ての人々の健康と福祉の向上のために、食品安全があり、医療があり、経済がある
●同じ目標を達成できるのであれば規制や費用は少ない方が良い
●政策決定には最良の科学的根拠を用いるべき
●食品の安全性確保にはリスク分析を活用

と、最後の

提言
研究者と行政に
健康影響評価に必要な基盤研究の支援と正確なリスク情報の提供を
食品事業関係者に
自社製品についてリスク分析に基づいた品質管理を
消費者に
必要な情報を見極める能力を養うための活動を
メディアに
責任ある報道を

を検討会の内容に盛り込めればとりあえずは目標達成といったところです。

内容についての質問があればどうぞ。

今回の会合では、消費者庁の、基本的なことから検討を始めるのだという意思は伝わったかと思います。少なくとも朝日新聞などが何故か暴走して報道している「トランス脂肪酸の表示を義務化するための検討会」ではないことは明確になったのでは。

また後で書き足します。

****

畝山の資料について鬼武さんから指摘があったのは、栄養リスクについて
A Model for Establishing Upper Levels of Intake for Nutrients and Related Substances: Report of a Joint FAO/WHO Technical Workshop on Nutrient Risk Assessment, 2-6 May 2005
http://www.who.int/ipcs/methods/nra/en/index.html
の報告書の、
http://www.who.int/ipcs/methods/nra_final.pdf
Figure 3-2. Dual Curves for Risk Relationship: Percentage of (sub)population at risk of ‘deficiency’ and then ‘adverse health effects’ as intake levels move from low to high
のような図がいいということです。

それから佐々木先生の話で米国は日本より食塩摂取量が少ないのにさらに減らそうとしている、という件について質問が出ていましたが、USDAのガイドラインが発表されたばかりなので食品安全情報blogの方から転載しておきます。
佐々木先生が言っていたのはこれが出る前のIOMの報告書のことです。

USDAとHHSは肥満の流行に直面してアメリカ人がより健康的な食品選択をするのに役立つ新しい食事ガイドラインを発表
USDA and HHS Announce New Dietary Guidelines to Help Americans Make Healthier Food Choices and Confront Obesity Epidemic
Jan. 31, 2011
http://www.usda.gov/wps/portal/usda/usdahome?contentidonly=true&contentid=2011/01/0040.xml
2010 Dietary Guidelines for Americansを発表した。
肥満の増加に対応して摂取カロリーを減らすことと運動することを強調した。

このガイドラインを生かすためのTIPSとして
・食事は楽しく、でも食べる量を減らして
・大盛りは避ける
・皿の半分は野菜や果物に
・牛乳は無脂肪か低脂肪(1%)に変える
・スープやパンなどのナトリウムをチェックして少ないものを選ぶ
・砂糖入り飲料の代わりに水を飲む

Executive Summary
ナトリウムの摂取目標が2300mg(塩換算5.8g)で51歳以上とアフリカ系アメリカ人と高血圧や糖尿病や慢性腎疾患のある人は1500mg(塩換算3.8g)

消費者向けメッセージ

BACKGROUNDER

Q & A

NAS
アメリカ人のための最新食事ガイドライン発表
Latest Dietary Guidelines for Americans Released
February 3, 2011
http://www.nationalacademies.org/headlines/20110203.html
USDAとHHSが2010年食事ガイドラインを発表した。ガイドラインの作成にあたった委員会はIOMの報告書も参照している。それら報告書へのリンク。
健康増進のためには野菜や果物やシーフードをもっと食べることと減塩強化、カロリー摂取量に気を付けて運動することを薦めている。

追記
コメント欄で教えてもらったニュース記事
消費者庁検討会開催、栄養成分表示化へ向けた課題浮き彫りに
2011年2月 1日

生活環境研究所ブログの傍聴記録
http://blog.skk-inc.co.jp/?eid=116376

報道についてのメモ

ゼロ食品氾濫が映す、食品表示後進国ニッポン
東洋経済オンライン 1月28日(金)
http://www.toyokeizai.net/business/industrial/detail/AC/fccb46db8eb0837cb3a260b9a782376a/

消費者庁は「食品表示の国際化」を目指し、昨年12月から栄養成分表示の検討会を実施。だが、議論の中心はトランス脂肪酸含有量の表示と栄養成分表示の義務化にとどまる。藤田氏は「厳罰化や主要成分の%表示など、先に手をつけるべきことは多い」と“本丸”に踏み込まない国際化に疑問を投げかける。
 メーカー側に甘い表示規制のあり方を根本的に見直さないかぎり、消費者目線の食品表示の実現は遠い。
(麻田真衣 =週刊東洋経済2011年1月15日号)

文中の藤田氏とは「食品コンサルタントで世界の食品表示に詳しい藤田哲氏」だそうです。

この記事はマーケティングの話と食品表示の話をごちゃごちゃにした、何が主要論点なのかよくわからないものなのですが、検討会の話が出てくるのでそこについてだけ。
少なくとも私の認識では栄養成分表示検討会の「議論の中心がトランス脂肪酸含有量の表示と栄養成分表示の義務化」だというのは間違いだし、そもそもまだ一回しか行われていないのに判断できるのだろうかと思います。
藤田氏の主張とされるところの「厳罰化が本丸」という認識も「国際常識」ではありません。
「消費者目線の食品表示」って何なんでしょうね。消費者にこびた結果がゼロ宣伝や無添加表示なのでしょう。メディアが情報を正しく伝えないがために間違った思い込みにより消費者からの要望が出て、それに応えるかたちで誰にとってもメリットの無い表示項目を増やす、のが「消費者目線」なのでしょうか。

第1回「栄養成分表示検討会」議事録が消費者庁サイトに掲載されました

http://www.caa.go.jp/foods/pdf/syokuhin486.pdf

とりあえずお知らせ。

これだけではつまらないので小ネタを少し。
誰が何を言ったかという形での議事録をこまめに公表しているのは日本くらいではないかと思います。FDAやEFSA等では普通は公表されるのは議事概要で、一言一句の記録が公表されるのはよほど大きな事件があったときの記者会見くらいでは。
概要のほうが読みやすいのですが、まとめる作業というのはそれなりに大変だしよけいな疑惑(省略されたとか意図的に編集されたとか)を生む可能性も無くはないでしょう。
日本のこの方式がすぐ変わるとも思えないので、読む場合の楽しみ方(?)を一つ教えましょう。議事録はおおまかなテープおこし原稿を関係者に確認して作るのですが、このときどこまで自分の発言に修正をいれるかが結構人によって違います。話し言葉というのはそのときはなんとなく通じても文字にすると言ってることがよくわからなかったり不正確だったりします。議事録の場合はそういうものを修正したほうが多分親切なのですが、人によって対応が全然違うのです。言ったことそのままが記録に残っているほうがいいという主張もあるのでしょうが、意図が正確に伝わることのほうが大切と私は思っています。議事録を読みながら、理路整然とした発言になっている部分は手を入れたのだろうななどと想像してみると「堅苦しい役人」のイメージが少しは「誠実で仕事熱心」のほうに傾いたりするかもしれません。

大きなリスクはないがしろにされ小さなリスクは騒がれる?

doramaoさんの2011-01-13の 栄養表示とナトリウム に便乗して、uneyamaが常々不思議に思っていることを書きます。
塩分の取り過ぎは良くないよ、ということも、殆どの人が摂りすぎている、ということも、情報としては良く知られていると思います。
塩の必要量は1日せいぜい2-3gなのに対して摂取量は平均でも10gくらいあるので、減らすことに躊躇する理由はないはずです。実際摂り過ぎによる病気もたくさんあるわけです。
なのにナトリウムに対しては「恐怖のナトリウム」とか「食べる爆弾」みたいな告発もあまり見ないし、某食品添加物の自称神様なども「保存料を使って減塩したものより塩をたくさんつかった梅干しの方が良い」などと書いています(事実は逆です)。
トランス脂肪酸については「ごく一部の人が望ましい摂取量を超えているかもしれない」というだけで規制しろと主張する消費者団体も、塩についてはあまり厳しいことは言わないようです。「欧米では」が大好きな市民団体も海外での減塩対策やキャンペーンについては広報したくないのかおとなしい印象です。
何故なんでしょう?


コメント頂いたので追記

>Gloriaさん

アメリカならNutrition FactsにあるDaily Valueみたいに、ナトリウム(または食塩相当量)の目標量に対する一食分中の量の%を表示するのが実用上有益だと思います。

この「目標量」をどうするかも結構悩ましい問題です。
「望ましい量」ではあまりにも非現実的で意欲がそがれそうだし、かといって高めの「現実的目安」だとさらに減らすための努力がなされなくなりそうだし。
考えられるのは長期的目標(理想的)とそれに至るまでの中間目標(何年までにこの程度)を設定して様子を見ながら順次目標に近づいていく、というようなやりかたですが、暫定目標値が変わるたびに%も変わるという若干分かりにくいことになってしまいます。

表示「教育」制度(栄養表示に限らない)

が重要なのは確かですよね。

>Ruさん

日本には、伝統食である味噌、しょう油、お漬物などがありますからね。お餅のように伝統食の擁護姿勢でしょうか。味噌汁2杯で塩分4g超えると思います。食事摂取基準でも、急激な減塩は、QOL低下を招くため徐々に・・など積極姿勢が感じられないです。私たち栄養士も保健指導、栄養指導で肉より魚、大豆など和食を勧める傾向にあるのも一因かもしれません。食塩の表示で自然、天然の表現が使われなくなりましたが、イメージが天然由来=安全と思われていると思います。

栄養士は普通の人より知識はあると思うのですが、和食を勧めるいうのは一般的傾向なのでしょうか。栄養士の中には減塩のためにうまみを使うという提案に対して、化学調味料はダメという主張をする人がいたりしてちょっと気になっています。
グルタミン酸カリウムやカルシウム、塩化カリウムなどの減塩に利用できそうなものを、「自然でない」「食品添加物」だから受け付けないというのはもったいないと思って。

doramaoさんの記事についていたはてなブックマークid:tetzlさんのコメント

全然関係ないけどうちのばあちゃん「お味噌汁の塩分があかんねや」っていいながらお椀の味噌汁薄めて全部飲んでたのを思い出した。

id:BUNTENさんのコメント

「薄めて全部飲」む。(^_^;)▼糖尿における、カロリーではなく甘味が問題という誤解みたいなもんか。甘くないからおにぎり一個くらいならいいでしょって言われても、それ食ったら2kmほど歩かないとチャラにできない。

が面白かったです。
本当にいろいろな誤解のしかたがあります。


なおこのサイトでは頂いたコメントやブックマークコメントなどを記事に取り上げさせて頂きます。このサイトの目的の一つとして、成分表示を取材している記者さんに読んでいただきたい、というのがあります。貴重な意見はみつけやすい方がいいと思うので本文にあげさせて頂きますのでよろしく。

【ナトリウムの栄養成分表示への意見をid:doramaoが記します】

私個人の意見ですが、栄養成分表示の中で消費者が表示を見て食品選択を行う場合に有用性が高いだろうと考える栄養成分は次の通りです。

『エネルギー』・『炭水化物』・『ナトリウム』

【炭水化物について】
平成19年国民健康栄養調査によれば、糖尿病が強く疑われる人、糖尿病の可能性が否定できない人をあわせると約2210万人となっております。糖尿病は日常の食事との関連性が高い病気であり、中でも炭水化物(糖質)摂取量が血糖値の変動に大きく影響することが知られております。最近では、糖尿病を持つ人に対する食事療法や食事の留意点はエネルギー制限から糖質摂取量に着目した方法に変わりつつあります。
このような状況を考えますと、糖尿病を持つ方が糖質量に着目した食品選択を行う機会は今後高くなると予想されます。炭水化物に関する表示はより重要になると考えます。

【ナトリウムについて】
日本人は塩分摂取量が多いと一般に知られており、その摂取量を減らしましょうと健康施策でも目標を掲げて行ってきたところです。日本人の食事摂取基準2010では成人の推定平均必要量を600mg/日(食塩換算1.5g)と設定しておりますが、日本人の食生活の現実を考慮し、今後5年以内に達成したい目標量として食塩換算で成人男性9.0g未満、成人女性7.5g未満を設定しているのが現状です。これはWHO/国際高血圧学会ガイドラインの高血圧の予防と治療の為の指針が奨める食塩摂取量6g/日未満に遠く及ばないのが現実です。これは、穀物の主食を持つという食事の構成が影響していると考えられます。
このような状況ですので、個々人が食塩摂取量に着目し、適切な食品選択が行えるようにするためにも誰の目にもわかりやすいナトリウム量表示が必要であると考えます。


■ナトリウムの表示
ナトリウムの表示についてはご存知の通り、栄養成分を表示する場合には必ず表示しなければならない項目になっております。
検討会の資料2栄養成分表示をめぐる事情*1p2には、栄養成分表示の例が次のように示されています。ナトリウムに着目してください。

ナトリウムのみの表記と()をして食塩相当量を併記している商品の二通りがある事がわかります。私個人としては、この表記についてある一定量の食塩量を超えるものについては、ナトリウム表記だけでなく、食塩相当量も併記を必須にした方が良いと考えます。

■ナトリウムについての理解
私は地域高齢者への栄養相談や講習会などを通じて彼らの知識水準をある程度把握しております。その理解の程度はヒトそれぞれですが、中にはナトリウムという成分がどのようなモノなのかを知らない方もおります。そのような方であっても、食塩の事は理解できており、血圧と関連しているという事もよく知っております。このような方々に食品表示を利用してもらう為にも食塩相当量で表記を行った方が有用ではないでしょうか。
こうした意見もあるかも知れません。ナトリウムがどのようなものか理解できていない層については、高血圧よりも優先される低栄養予防の観点から塩分摂取量いまさらどうこうしなくてもよいのでは?という意見です。なので、もう少し若い層についても考えてみます。
私の身の回りの方(30〜60代の方15人程度)に聞いてみた信頼性の劣る話ですが、ナトリウム量から食塩相当量に換算できますか?と質問をしたところ、できると答えた人は、10人以上聞いたところ一人もおりませんでした。そうした方でも、食塩摂取量はどれぐらいに抑えた方が良いか知っていますか?という質問には1日10g未満(昔の話ですが)と答えていただけました。この年齢層の方々がある程度の意識を持って減塩に取り組もうと考えた場合、ナトリウムのみの表示であれば、食品選択が上手に行えるでしょうか。少し心配になります。

■教育か表示か
現在の知識レベルを考えるとナトリウムのみの表示では有効活用されないのでは?というのが私の意見です。では、どうしたら良いのでしょうか。一つは教育があげられると思います。ナトリウムがどのようなものなのか、食塩量に換算する場合にはナトリウム量に2.54を乗じたものを1000で除すと周知するとします。しかし、この方法では減塩教育を届けたい相手に十分に伝わらない・理解して貰えない可能性が高いように思います。勿論、教育はとても大切なのですが、食品表示をわかりやすくする方が効果的だと思います。

■ひとつの例
一人当たりの1日塩分摂取量は東北地方が高く、中でも青森県は平均余命が最短であり塩分摂取量の多い地域である事はよく知られております。そのような状況にある青森県ですが、カップ麺の消費量が全国トップレベルであるというデータが存在します。総務省家計調査によれば、2007〜2009年の青森市1世帯あたりのカップめんの購入金額、購入数量は都道府県庁所在地中では最上位に位置しておりました。参考→http://www.stat.go.jp/data/kakei/family/4-2.htm#_3
カップ麺にも色々ありますが、例えば日本で一番販売数量の多い製品のナトリウム含量は2000mgであり、食塩相当量では5.1gです。この商品のエネルギーは357kcalですので、平均的日本人の1食分に十分なエネルギー量では無いのにもかかわらず、食塩摂取量の目標値の半分以上摂取する事になってしまいます。このようにカップ麺は一食で目標量の半分以上の食塩量になりかねない塩分摂取を気にする方には要注意な食品です。紹介した商品については、ナトリウム量だけでなく、食塩相当量も併記されておりますが、メーカーや商品によっては併記されていない商品も存在します。
日本人の食塩摂取量や食生活の現状を勘案しますと、食塩相当量の併記だけでなく、この商品を全て食べると1日の目標摂取量の○%食塩を摂ることになります、という表示が必要かも知れません。
カップ麺を食べるときには表示もみましょうね?というようなキャッチフレーズを認識して貰えれば、頻度を減らすとか、汁を飲むのを躊躇するなどの行動変容につながる可能性も考えられそうです。


■食塩摂取の現状
食品表示の話からは離れてしまいますが、食塩摂取の現状にも言及しておこうと思います。まず、食塩摂取量の推移を確認します。


平成21年国民健康栄養調査結果の概要より

食塩摂取量は年々低下しておりますが、食事摂取基準の目標には及んでいないことが分かります。
グラフを見れば順調に低下を続けているようにも見えます。ところが、ある要素を勘案するとこのグラフ程には順調に減塩が進んでいないのではない可能性が見えてきます。

この表は摂取エネルギー1000kcalあたりの食塩摂取量の変化を示したものです。エネルギー当たりの食塩摂取量の低下は単純な食塩摂取量の低下ほどには進んでいないことがわかります。これは食塩摂取量自体も減ってるのと同時にエネルギー摂取量も同時に減っているからです。要するに食べる量が減れば食塩摂取も減るのは当たり前だということです。つまり、今後食べる量が減らなくなれば、食塩摂取量の低下速度も減速する可能性を示しております。
もう一つ表から読み取れることは、若い年齢層ほど食塩摂取量が少ないという事です。これは食習慣や嗜好の違いからあらわれるものと思いますが、若い人の食習慣の特徴として炭水化物エネルギー比が少ないという事があります。これは『日本型食生活』および『ごはん食』離れと関係しているかもしれません。ごはんに合うおかずにはしょっぱいモノが多いというのは実感に合致すると思います。
勿論、この事だけが影響しているとは思いませんが、本当に塩分摂取量の減量を目指すのであれば考えなくてはならない問題であるというのが私の意見です。

第1回栄養成分表示検討会の資料について

第一回の主議題は消費者庁の作成した資料でした。平中さんが説明しておられましたが、これについて改めて見直してみます。

消費者庁サイトからは分割ダウンロードができるようになっているのでそれに従ってコメントをつけていきます。とりあえず地の文はuneyamaが書いています。

1.栄養成分表示制度について(P.1-9)[PDF:1,152KB]

栄養成分表示の根拠となる法律は健康増進法で、基本理念は「健康増進」のため。そして「正しい知識の普及」。
そういう視点でみると栄養強調表示の「欠乏」と「過剰な摂取」というのは誰にとって「正しい」のか、という疑問があったり。脂肪には必須脂肪酸があって少なければ少ないほど良いわけではなく、ビタミンAは妊婦さんにとって摂りすぎは注意すべきだし、というようなことはこの表示からはわからない。


→doramao
詳しくは1月7日エントリに書きました。参照いただければと思います。
栄養強調表示は業者の効能仄めかしに利用されている側面があり、その運用は慎重に行われて欲しいところです。個人が真に必要とされる栄養量は食事摂取基準からはわからないワケですので、一般消費者が適正に運用できるモノではないと考えられます。欠乏過剰が明らかにモンダイ視される栄養素にのみ絞って認められるぐらいにした方が良いのでは?と個人的には思います。



2.栄養成分表示制度の変遷(P.10-13)[PDF:488KB]

かつては栄養を摂れることが売りになったのに今はカロリーが少ないことが売りになる、といったように時代とともに変わる。それが適切にタイムリーに反映される仕組みがないとかえって足かせになりかねない、と思う。
食事摂取基準の数値の意味がちゃんと理解されるかどうかというのも問題。たとえば米国の表示だと1日の摂取量の何%にあたるのかということも示されるが、この時のナトリウムの値が理想の値(非現現実的な少量)ではなく当面の目標値(達成できそうな値)であるため、健康促進には逆効果だという主張がある。%表示のもとになる量が「これ以上摂らない方が良い量」なのか「最低限これだけは摂ってほしい量」なのかを理解できる人は少ないだろう。



id:ohira-y コメント
1.2.の部分に関して、資料でも食事摂取基準に言及がありますが、その基本的な考え方の部分は議論する上で広く理解されていたほうがよいと思います。食事摂取基準もまともに読むとかなりの分量がありますが、たとえば『「日本人の食事摂取基準」ブロック別講習会資料について』の中の総論の部分は重要でないかと考えます。
また、特にその中でも次の2ページ

この2つについての解説があれば栄養摂取基準のもつ数値の意味も比較的解りやすいと思います。用語の意味の説明では理解が難しいと思います。



→doramao 
日本人の食事摂取基準を編纂された方の一人である佐々木敏教授は、食事摂取基準について、栄養士や専門職によって読まれる事を前提に作成されました、と述べております。その考え方を素人の方も含む議論の場に用いるのは少し難しいかもしれません。けれども、その考え方については重要な点も多いので上手にかみ砕いて説明すれば有用かも知れません。この辺りは難しいところですね。
個人的には、微量栄養素の含有量が記載される事自体を否定はしません(専門の方の参考にはなる)がそれが不特定多数の方の役に立つのかと問われれば否だと考えます。含有量については熱量、3大栄養素と食塩相当量(ナトリウム量を併記にする)が記されていれば良いと思います。その他については、成人の1日必要量のおよそ○%みたいな記載があれば十分じゃないでしょうか。


→uneyama
食事摂取基準との関係については佐々木先生が次回お話されるのではないでしょうか、と勝手に期待。それともお願いしてみたほうがいいでしょうか。

→doramao
そうかも知れません。これは私個人の印象なのですが、佐々木先生は嘘情報を追求するというよりも、自身が研究を進め新たな知見や精度の高い情報を発信していく事を重視しているように思います(当たり前なのですが)。なので、石拾い的な話はuneyamaさんがキッチリおさえていく事が必要なのではないかなぁ、という気持ちがあります。

3.栄養成分表示に関する調査結果(P.14-17)[PDF:585KB]
これは消費者を対象にしたアンケートの結果です。
「食品を選択する際の各表示事項の重要度」というグラフなど、消費者がいかに間違った情報に踊らされているのかを示しているもの、と思えるのですが。このグラフの13項目のうち、食品の安全性に関係する項目は消費期限とアレルギー表示くらいでその優先度が低いのです。もっとも日本の消費者は食品は無条件に安全と信じているのでそれ以外のことのほうが重要だと考えている、のなら話は別ですが、たぶん違うでしょう。

消費者の選択の権利を守るためには、正確な情報が提供されていること、が何より重要です。嘘の情報が氾濫し、間違った思い込みによって選択「させられている」現状では、「消費者が望むから」というのは政策の根拠にはなりえないでしょう。

4.栄養成分表示をめぐる国際的な動向(P.18-23)[PDF:1,455KB]
この部分は検討会ではあまり詳しくは説明されなかったのですが、いくつか補足してみたいと思います。
表示に関してはなんといっても北米が一番項目が詳細で充実しています。表示義務導入時期も早く、最近では加工されていない生肉などにも表示が要求されるようになりつつあります。でも米国は表示による健康促進はできないことを証明している事例でもあります。栄養成分表示が導入された後も肥満増加に改善のきざしはみられません。逆に、FAT FREEなどのような栄養強調表示があると、それが免罪符となってたくさん食べてもいいと認識するという調査結果が出ています。しかも米国人はFAT FREEや「ローカロリー」だけでなく、栄養とは関係のない「オーガニック」や「抗生物質フリー」のような表示ですら、「健康によい」と解釈して「それならたくさん食べてもいい」と考えるというのです。
また詳細な栄養成分表示をじっくり見て理解するのは困難であることから、パッケージの表面にもっと簡単な表示がされていることがあります。Front of Package(FOP)表示というもので、この資料の「海外の例」には通常の栄養成分表示とFOP表示がごちゃ混ぜになって取り上げられています。栄養成分表示は普通は包装の裏面や側面に比較的小さい字で白黒で記載されていますが、FOPは商品がディスプレーされる前面に、目立つようにカラーやデザインを使って表示されるものです。英国の例が信号表示と呼ばれるFOPで、信号と同じく赤より黄色、黄色より青を選びましょうというメッセージが込められています。もちろんこのメッセージは肥満率の増加に対応したものです。

世界的に栄養成分表示を義務とする国が多くなってくれば、なんとなく表示しなくちゃ、と思わせる部分もあります。食品表示のために日本の食品の栄養成分データベースを充実させるとか、食品成分表示のためのツールを開発するとかいうことは中小企業が輸出をしようとする場合には役に立つとは思います(というか食品業界は一部を除いてほぼ中小企業なので)。そういう環境整備はやったほうがいいと思います。


→ohira-y

食品表示を行う側にとって義務化された場合の「義務」の範囲がどこまで及ぶのかには大変関心があります。例えば、JASの品質表示基準のように容器包装されて販売される加工食品すべて表示する必要があるのか、それとも何らかの除外の規定があるのかです。表示を義務化している国では、例えばサンドイッチのようなものまで全て表示があるのか(日本ではコンビニの弁当類には概ね栄養成分表示あり)、それともどこかで線引きして除外の規定があるのか?そういった部分は外国の制度の話でも説明されることが少ないので、実態が分かりません。

→uneyama
具体的なことや細かいことは今回の検討回では議論しないと思うのですが、たとえばこういう表示をした場合にはコストがいくらかかるのか、みたいな数字があるといいと思っています。費用対効果の検討という意味でも、消費者にコストをもっと意識してほしいという意味でも。



参考資料.「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」(案)
概要
参考資料なので本題ではないのだけれど注目されている案件なので一応これについても。
この中に

日本人一日当たりのトランス脂肪酸の平均摂取量は、総エネルギー摂取量の0.6%程度となっているが、我が国における最近の研究では、若年層や女性などに、摂取量が1%(WHOは1%未満とするよう勧告)を超える集団があると報告されている。

という記述があって、その根拠は以前出されたファクトシート
トランス脂肪酸の健康影響に関する最近の科学的知見

で引用されている論文。
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jea/20/2/119/_pdf
(論文へのリンク)
1%を超える人がいるという話を聞いたので規制すべきだと思いました、と消費者団体の委員の人が発言していたのでインパクトが大きかったのかもしれない。
この論文自体は単に摂取量を推定しただけのもので、推定摂取量は平均では総エネルギーの1%未満だけれど、30-40代の女性が1%を超過している割合が一番多いと言っています。
一部の集団で目安量を超過しているから規制すべきだという主張は食品のリスクについての基本的理解が不足しているということを示すもので、それはそれで課題として明らかになったとは思います。
さらに、心筋梗塞の発症率が一番少ない集団(心筋梗塞は女性より男性が多く、女性でも増えるのは閉経後)が、目安量をほんのちょっと上回る人の割合が一番多い、という話からは、普通に解釈すれば心筋梗塞と目安量の超過は関連が無いということになります。

さらにファクトシートで言及されているもう一つの論文なのですが
Asia Pacific Journal of Clinical Nutrition誌(18巻359-71頁)
アブストラクトのみ)
要約ではトランス脂肪酸摂取量とコレステロールに関連はなかったとなっています。トランス脂肪酸の平均摂取量が総エネルギーの1%より小さいような集団においては、トランス脂肪酸摂取とコレステロール濃度に明確な関連はみつからないということ自体は特に意外ではないのですが、この結果を消費者庁のファクトシートではこんなふうにまとめているのです。

・女子学生1136人において、トランス脂肪酸の総摂取量および工業的に作られたトランス脂肪酸の摂取量が高い人ほど、腹囲が大きく、血中の中性脂肪ヘモグロビンA1cが高い傾向。
・危険因子は中高年になって表面化することが多いが、欧米と比較して摂取量が低いこの若い集団でもトランス脂肪酸との関連がみられた。


一番大事なコレステロールについて関連が無かったことを無視して、その他の、トランス脂肪酸とは直接関係ないかもしれない部分で、多重比較のためについたかもしれない有意差を強調しています。
こういうところから、資料を作ったときにトランス脂肪酸の悪影響の根拠を探したいというバイアスがかなり強いのだと感じられてしまいます。
もちろん、トランス脂肪酸の「摂りすぎ」がよろしくないのは多分間違いのない事実なのでしょうが、その影響がどのへんから出るのかについては厳しく見極める必要があります。食品中化学物質のリスク評価において最も困難な課題の一つが「閾値」の見極めなのです。高濃度で影響が出るから低濃度まで原点を通るようにまっすぐ直線を引く(トランス脂肪酸の大御所であるMozaffarianはこれをやっている)、というのは低用量領域でリスクの過剰推定になることが多いです。典型的なのが遺伝毒性発がん物質ですが、これは論点がずれるのでこれ以上は言いません。
結局日本人のような低摂取量の集団で、トランス脂肪酸の摂取により「血中LDL濃度が増加しHDL濃度が低下」して「心筋梗塞リスクが高くなっている」というデータはまだ出ていないし示唆されてもいないと私は思います。

ただ、そういう細かいことよりもっと大事なことは、食品安全委員会がリスク評価を実施中なのだから、その結果を尊重すべきということです。科学的評価を無視して「消費者の不安な気持ち」だけを重視するというのは消費者にとっても不利益にしかなりません。

栄養成分表示についての個人的な意見や印象など id:doramao記す

■自己紹介など
畝山さんからは栄養学的観点からの意見を期待されていると思いますが、自分のわかる範囲で書かせていただこうと思います。私は管理栄養士という資格で仕事をしておりますが、栄養管理業務の他に、地域の高齢者に対する食事相談や講習会などを行う事もあり、一般消費者がどの程度の認識を持っているか、その生の声を一応は聞ける立場にあります。専門性としては、食品の微量成分の健康効果なども研究していた事もありますが、○○が△△に効くというような主張には懐疑的立場であり、1ヵ月スパンで帳尻を合わせることができれば、ちょっとした逸脱などは全く問題ない場合が殆どであろうと個人的には考えております。なので、消費者がトータルで見た場合得すると期待される制度を設計する事が大切であると考えます。

栄養成分表示について私に求められるのは健康増進法に関わる箇所であると判断し、その部分に重点を置き今後は考えて行きたいと思います。


■畝山さん1/4エントリに感じたこと
検討会の雰囲気が分かりませんので、畝山さんが書いた内容とpdfファイル:栄養成分表示をめぐる事情*1を参考に思い浮かんだ事などを今回は書かせていただこうと思います。

  • その1:消費者は本当に細かい表示が必要なのか?求めているのか?


資料のp16には消費者の意識調査として、モニターを対象にしたアンケート調査の結果が載っております。問いの本文(強調はdoramaoによる)とグラフを転載しまいたが、ちょっと気になる点がありました。
アンケート調査から消費者のニーズを探ることはとても大切な事だと思いますが、ちょっとした言葉の用い方でその結果は大きく変化してしまう事はよく知られていると思います。下線で強調した部分を見ていただきたいのですが、この部分は回答者を誘導していると捉えられ兼ねない、ワーディングでは無いか?と私は思うのです。この結果を見る限りでは殆どの消費者が栄養成分表示の義務化を歓迎しているように見えますが、実際にはそこまで望んでいるのでしょうか。外国で当たり前なのに、日本は行っていません、必要だと思いますか?と、問われれば特に考えたことがなかったヒトでも賛成の回答に傾きかねないのでは、と考えるのです。
では、この文の下線部分を次のように書き換えたらどのような回答結果が得られるでしょうか?

全ての食品に栄養成分表示を義務化を行った場合製造コストが高くなり、中小食品業者の経営を圧迫する虞と、小売価格への転嫁が予想されるところです

結果はわかりませんが、否定的な意見が多くなるような気が致します。

同資料p17から転載します


二つめの表だけを見ると栄養成分表示を参考にしているヒトは見たことがある者のウチ65.6%いるとなっておりますが、見たことのあるヒトの割合は半数にも満たない42%であり、全体で考えると、参考にしている者の割合は約27.5%に過ぎない事が分かります。
以上の事を考えると、関心の程度はそれほどでもないのでは?と考えてしまいます。関心のあるヒトは任意に栄養成分を表示している業者、店舗を選ぶようになるので消費者の選択に任せてしまって良いのでは?という気もします。市販食品の約8割に表示がある現状を考えれば殊更完全に義務化する必要はあるのかな、という事ですね。

同資料p20にはコーデックス委員会ガイドラインの目的が書かれております。その中に次のような記述があります。

栄養表示が、いかなる方法態様によってであり、虚偽である、誤解を招く、消費者を欺く又は無意味であるような形で製品を説明したり、製品に関連する情報を提供したりしないようにすること。

私はこの中にある、『誤解を招く』という部分について色々と気になるところがあります。複雑な制度では消費者が正しい認識を持つことが難しくなり、業者はそれを逆手にとるような商売をする虞があるからです。栄養機能食品の一部(だと思いたい)にはそのように受け取られてもしょうがないような食品表示が見られます。それについては拙ブログで言及*2したことがあります。

  • その3:日本人の食事で過剰や不足が心配されるモノ

畝山さんが言及されておりますが、日本人の全体傾向は抑えておきたいところだと思います。この場合は食品と謂うよりも、食品成分としてまとめた方が良いと思います。
平均的日本人でも過剰摂取による健康への影響が心配される食品成分:水銀、ナトリウム、ヒ素ヨウ素など
食嗜好によっては過剰の虞がある食品成分:脂質、糖質、リンなど
平均的日本人でも不足が心配される食品成分:カルシウム、鉄、食物繊維、(カリウム
食嗜好、生活習慣によっては不足が心配される食品成分:たんぱく質亜鉛マグネシウム、ビタミンD、ビタミンB12など

  • その4:その他(同資料p12のこと)


この表では、欠乏及び過剰が健康に影響を与えるものそれぞれを分けて表にしておりますが、この分け方には少々疑問があります。基本的に金属元素は過剰であれば健康に影響を及ぼすことが知られております。ヨウ素はどちらかと謂えば、過剰摂取が心配されるミネラルです。
もう一つ、日本では肥満ばかりが問題にされますが、若い女性を中心として摂取熱量不足が心配される状況にあります。実際、若者の肥満傾向が現れる割合は減少し続けて*3
おります。熱量の不足は過剰よりも生命の危険があるのはもっと知られて欲しいと思うのです。熱量関係では日本に於いて炭水化物は欠乏の心配がほとんど無いばかりか、欠乏した場合でも脂質に比べて健康への影響は現れにくいと考えられます。単糖類、二糖類の過剰摂取を問題視しつつ、欠乏に炭水化物を示すのは一貫性に欠ける気がいたします。
微量ミネラルについても気になる点はあります。例えば、クロム、モリブデンなどは静脈栄養などの特殊な状況下以外に、欠乏症は確認されたことのないミネラルです。通常の食事では欠乏は全く気にしなくて良いモノです。これら成分が表示されるメリットはほとんど無いのでは?と個人的にはおもっております。

以上、ダラダラと述べて参りましたが、今後は必要な情報を集め少しでもお役に立てるよう準備したいと思います。