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栄養成分の分析や表示に関する諸問題 ohira-y記す

消費者庁から「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」が公表されました。


消費者庁 トランス脂肪酸に関する情報 http://www.caa.go.jp/foods/index5.html


今回は栄養成分の表示にかついて、トランス脂肪酸の表示にかわるコストや、栄養成分表示と分析値の誤差などの表示に関して気になっていることを書いてみたいと思います。

表示にかかわるコストについて


栄養成分表示を行うに際して、日本食品標準成分表と配合を元に計算で求めることも可能ですが、多くの企業では実際に分析した数値をもとに表示を行っていると思います。大きな会社では自社に分析施設を有している場合もあり得ますが、多くの場合は外部の検査機関に依頼します。この外注費用は栄養成分表示を行う企業にとって避けることのできないコストといえます。では、いったいどのくらいの費用がかかるのでしょうか?


栄養成分分析に限らず、微生物や理化学などの分析を行う機関は多数ありますが、最大手ともいえる財団法人 食品分析センターがHPで公開している情報*1から確認してみます。

栄養成分を表示する際には、最低限 エネルギー・たんぱく質・脂質・炭水化物・ナトリウムの表示が必要です。それらの分析値を得るには基礎成分の「五成分エネルギー」(¥15,400より)とミネラル類のナトリウム(¥5,500)を併せて依頼する必要があり、合計で約2万円となります。
また、仮にトランス脂肪酸の表示が義務化された場合、これらに加えてトランス脂肪酸飽和脂肪酸及びコレステロールの分析が必要になり、更に4万2千円が必要になります。*2この、合計金額約6万2千円がトランス脂肪酸の表示を行う際に必要なコストと言えます。これは、決して小さな額では有りませんし、食品の種類にもよりますが少量多品種を短いサイクルで切り替えるような業種の場合にはかなりの負担になることが予想されます。例えば、コンビニエンスストアでは毎週10数種類のオリジナル商品(弁当やデザートなど)が発売されます*3コンビニエンスストアの弁当類などは一部を除いて販売期間は数週間であるケースがほとんどです。大口の取引先には割引料金なども適用されると思いますが、それでも原材料の値上げや販売価格の下落に多くのメーカーが苦しむ中で栄養成分表示にかかるコストが3倍になることは大変なことだと思います。


表示の無い食品と分析の誤差について


第一回の検討会において、蒲生委員が次のような発言を行っています。*4

トランス脂肪酸の摂取量が1%を超えるのではないかというグループは、脂肪の多い食品やお菓子をたくさん食べる若年の女性に多いという報告を読ませていただきましたが、 脂肪が多い食品やお菓子、例えばケーキやドーナツやフライドポテト、そういったものは 表示が必要でない対面販売で売られているものが多いわけですので、表示をすることでどれだけ効果が期待できるのか疑問に思っております。


栄養成分の表示には20%誤差(但し、項目による)が認められています。実際の表示にどの程度の誤差があるかなかなかわからないのですが、投入した原料が全て固まって出てくるような物や、均質なものであれば比較的誤差は少なく、そうでないものはバラつきが多いだろうということは想像できます。蒲生委員が指摘する対面販売の商品はまさに栄養成分の値に誤差が生じやすいと思われる商品です。そういった対面販売品について表示の状況を調査した事例はあまりないかもしれませんが、国民生活センターが過去に中食(持ち帰りの惣菜など)で調査した事例があります。


国民生活センター 中食のフライ−脂質の量と質を中心に利用する上での注意点を探る− http://www.kokusen.go.jp/test/data/s_test/n-20070207_1.html

目的

 中食のフライ40銘柄(コロッケ17銘柄、ロースかつ11銘柄、ヒレかつ7銘柄、エビフライ5銘柄)について、脂質の量、質を中心に、揚げ油の酸化などについてもテストし、手作りのフライとの違いや、利用する上での注意点を調べた。


結果

  • 健康との関係では、脂質摂取量は減らした方がよいが、中食のフライ1食分食べると、多いものでは脂質の1日の摂取目安を摂ってしまう
  • 中食のフライは手作りに比べ衣の率が高く、その結果、脂質も多く摂ってしまう。摂取する脂質の約7割は衣に吸収された油であった
  • ロースかつ1食当たりで多く摂取することが望ましくない脂肪酸飽和脂肪酸)については1日の摂取目安に達してしまうものが、特にとんかつ専門店で見られた。一方、摂取することが望ましい脂肪酸(n-3系脂肪酸)については、一部の銘柄を除き1日の摂取目安には達しなかった
  • 摂取すると心臓疾患のリスクを高めると言われているトランス脂肪酸が検出された銘柄があったが、食事、栄養及び慢性疾患予防に関するWHO/FAO合同専門家会合の摂取上限目安量の1/5程度であった
  • 中食のフライは手作りに比べ、食塩が多く含まれる傾向にあった
  • 一部で、店舗や日によっては揚げ油が酸化していたものがみられた。また、揚げ油の種類は植物油中心であったが、とんかつ専門店などでは飽和脂肪酸がやや多く含まれ、n-3系脂肪酸の含有量は店舗ブランドによって最大で15倍の差があった
  • 容器包装されている銘柄には、食品衛生法に基づく添加物やアレルギーに関する表示があったが、原材料や栄養成分に関する表示があったのはごく一部であった

(強調は筆者)


栄養成分の表示状況については報告書概要(PDF) のP9に記載があり、任意表示ながらも10銘柄中7銘柄に表示があるものの4銘柄では分析値との誤差が栄養表示基準の許容範囲を超えていたとのことでした。仮に栄養成分表示が義務化されたとしても、こうした中食や対面販売については表示することが難しく、表示したとしても誤差をどうするのかという問題が残ります。

業務用食品の表示についてはどうなる?


 検討会の資料では80%の食品に表示があったとされています。しかし、蒲生委員が指摘されているように、外食や中食ではほとんど表示ありません。こうした消費者が直接口にする食品以外に、おそらくほとんど表示が行われていない食品があります。それは「業務用」の食品です。ここでいう「業務用」とは、業務用スーパーなどにあるサイズの大きな商品と言う意味ではなく、例えば製麺所がラーメン屋に納める麺の様に消費者に直接販売されないものです。JAS法ではミートホープの事件以来、この業務用についても表示のルールが定まりました。こうした「業務用」の商品の扱いについては議論から抜け落ちている気がします。
もちろん、最終製品では無いために表示は必要ないという考えもありますし、逆に外食や中小の会社が栄養成分の情報提供する際に、原料の栄養成分がわかれば、そこから計算で求まるという考え方もあります(実際に栄養成分表から算定することも認められます)。また、もしかしたら変に義務化という話になると、こういう中間加工品を製造している業者へも最終の製品を作るメーカーや店舗から表示を求める動きが生じるかもしれません。
徳留委員の発言

もし、栄養成分表示を義務化した場合に、特に、中小企業の方の負担といいますか、そのあたりを考慮する必要があるのではないかと思います。

第1回「栄養成分表示検討会」議事録P18

にもあるように、食品製造業には中小企業が多いので一定の配慮をしていただきたいと思います。


最後に トランス脂肪酸の表示を義務化する方針と言っているのは誰?


栄養成分表示検討会がトランス脂肪酸表示の義務化に向けた検討会と巷で思われている節があります。消費者庁が「トランス脂肪酸の情報開示に関する指針」を公開したことを伝える報道においても「トランス脂肪酸の表示を他の栄養成分とともに義務化する方針」といった文言があり、トランス脂肪酸の表示が既定路線になっているように見えます。しかしながら、少なくとも日本人の大多数はトランス脂肪酸の摂取量に問題はありません。また、議事録や資料を確認する限りでは、どの委員も「トランス脂肪酸の表示ありき」で議論を行ってはいないように思えます。表示について検討を指示した福島みずほ元消費者担当相はそういう思惑を持っていたかもしれませんが、議論・検討についてはそうしたものに左右されずに行われるべきと考えます。
あくまで、日本にける栄養成分表示制度がどうあるべきかという視点を忘れないようにする必要があると思います。